ペンギンノート

福島在住ライターのブログです。 福島から見た政策・経済などについて、リアルな感覚から書いています。

石棺騒動


東電福島第一原発廃炉方法を検討する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が今月13日に公表した「技術戦略プラン」の中に、「石棺」の文言があり、しかも「状況に応じて柔軟に見直しを図る」と記述された、ということで、県知事をはじめ地元の猛反発を招いたという今回の石棺騒動である。
石棺方式というのは、燃料デブリを取りださずに原子炉ごとコンクリートで覆ってしまう方式のことで、これをやると今原子炉がある場所がそのまま最終処分場になってしまう。
結局20日に「石棺方式」という文言を削除した修正版の戦略プランを公表して、機構が謝罪する、という状況になっている。

廃炉に関心を持って状況を追っていると、「えっ今更石棺?」というかなり唐突な感じを受けるので、何かこの騒動には事情があるのだろう、と某報道関係者に探りを入れてみた。
なんともやるせない騒動であったようだ。

まず、機構の理事長は、元京大原子炉実験所教授山名元氏である。
彼自身は、「何がなんでも絶対燃料デブリは取り出す」という強固な信念を持った人である。これはブレない。
しかし、ちょっと違う考え方を持つ人がいる。
原子力規制委員会の更田豊志委員。この人はときどき「石棺」ということを言う。
平たく言えば、理事長山名氏は、この「石棺」という可能性を完全に潰したいと考えた。
絶対取り出す。
だが、真正面から「絶対ない」とやると、強硬派の更田氏がものすごく反発するだろう、というのが予想された。もめれば多方面で遅滞するし、そんなことで遅れている場合じゃないので、それは避けたい。

だからちょっと丁寧にしようとした。

いったん今回のプランで「石棺の可能性を言う人もいますが実現性は乏しい」と一言書いておいて、1年後に「石棺の可能性は全くないことがわかりました」と完全に潰す、という作戦だ。
約300ページに及ぶ分厚いプランの中の、たったの10行足らずである。
しかも、石棺は「問題がある」という文脈で使われていた。

何故これがこんなに大きな騒ぎになってしまったか。

NHK(福島ではなく東京の)が、文脈は関係なく「あっ、石棺て言葉が書いてある!」というだけで、13日夕方のニュースで「石棺だって!」と報道したのだ。

すると福島の地方二紙はもちろん翌朝には大きく報じる。
原発周辺の市町村長はもちろん怒る。
知事はすぐに経産省に飛んでいき、猛抗議する。
経産省はもちろん機構に修正を求める。
機構は即刻修正と謝罪の会見を開く。
こんな大きな動きになったら、他紙やテレビ局だって放置はできない。
大騒ぎになってしまった。

・・という細かい内部事情を知ると
石棺という発想そのものを完全にゼロまで潰そうとしていた当の理事長が「石棺を考えているのか!」と責められて謝罪しまくっている姿がどうにも釈然としない。

報道関係者のしんどさを痛いほどわかっている。だからひとくくりにはできないと思うし、そもそもあんまり言いたくないのだが、
1回2回ではなくこの手のNHK発の騒動は起こっているので

NHK、ちょっと考えて報道したらいかがか。