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ペンギンノート

福島在住ライターのブログです。 福島から見た政策・経済などについて、リアルな感覚から書いています。

福島、放射線、廃炉を知るためのブックリスト

2011年3月以降に出版された震災関連書籍は1万冊を超えると言われています。 

東京電力福島第一原発の事故に関連したものと限っても数千は下らないでしょう。

福島県内の書店や図書館には、5年半が経った今でも「震災・原発事故関連コーナー」が設けられており、たくさんの大小さまざまな本がずらりと並んでいます。

しかし、その中には、(インターネット上の雑多な情報ほどではないにせよ)ちょっと首を傾げてしまうような本が多いことも確かです。

特に、フィクションのジャンルでその傾向があるなあ、と感じることが多いのは悲しい。私は、震災前まではむしろフィクションを好んで読んできました。物語の力を信じてきましたし、今でも物語には絶大な力があることを感じています。でも、だからこそ、その強い力を濫用すれば、どれだけ甚大で深刻な被害を及ぼすのか、ということも感じています。

何かが起こったとき、まずそのことを私たちに知らせてくれるのは「ジャーナリズム」と言われるジャンルのペンです。そして少し時間が経ったとき、何が起こったのか、誰が関わったのか、世界への影響は、といったことを相対化しながら事実に基づいて考察し、そして私たちはどのように生活をすればいいのか、といったことのヒントになるのが、「ノンフィクション」や「論文」のような種類のペンです。

福島に関して言えば、「ノンフィクション」や「論文」まで、ペンは健闘しているように思います。なので、まずは「ノンフィクション」のジャンルでとても素晴らしかった本を挙げました。

本当はこのあとに、「フィクション」があります。物語は、私たちひとりひとりがそれぞれの心に深くもぐり、そこで再び出会って語り合うためのドアであり、心を深く掘り進むためのスコップです。

心はとても無防備な場所です。人間の一番やわらかく大切なところを、故意に傷つけることは許されることではありません。

そこにじかに触れることができる「フィクション」を故意に濫用するような悪意がこれ以上世界に溢れないことを祈ります。

 

 

知ろうとすること。 (新潮文庫)

知ろうとすること。 (新潮文庫)

 

1冊目には、東大の物理学者早野龍五先生と、ほぼ日刊イトイ新聞糸井重里さんとが共著された、「知ろうとすること。」を挙げました。

事故の後、不安と恐怖で日本中がパニックに陥っていた時期がありました。

そのとき、毎日膨大な「事実」を淡々と発信しつづけた物理学者が、早野先生でした。暗闇の中に浮かぶ一筋の光の糸のように、あのころ早野先生のつぶやく数値を追い続けていたことを思い出します。

早野先生はその後、子供の内部被ばくを測定する装置を開発されるなど、主観的な意見を述べることをせず、ひたすら正確な数値をはかり続けました。今でも、県内の高校に頻繁に通い、子供への放射線教育に尽力されています。

糸井さんが東北、福島にずっと関わり続けていることはもう言わずもがなでしょうか。

本屋さんで、カバーがかかっているのにも関わらず、なんとなく積んである山の一番上を避けて本を選んだことが恥ずかしながら私もあって、この比喩は心に残りました。

放射線に限らず、「科学への姿勢」を深く考えることのできる一冊です。

 

科学的とはどういうことか、を考えたあとに、では放射線に関して科学的になるってどういうことなのか、を知る第一歩はこの本が役に立ちました。

ツイッター上では、さばけていながらなかなかにキツい言葉の多い「きくまこ」先生ですが、この本の中での先生はまるで別人です。とても丁寧で2つの意味でやさしい解説をされています。知ろうとしている人には知ってることを解るように教えるよ、という空気も感じられます。

 

放射線と冷静に向き合いたいみなさんへ

放射線と冷静に向き合いたいみなさんへ

 

(原著です)  

Radiation: What It Is, What You Need to Know

Radiation: What It Is, What You Need to Know

 

放射線についてもう少し深く学びたいと思って探していたとき、巡り合った本です。

骨髄移植と白血病の専門医ロバート・ピーター・ゲイル博士は、チェルノブイリ事故、東海村事故、そして福島第一原発の事故など、放射線事故があるたびに救護活動をされてきた放射線と健康に関わる世界的権威です。

医師は、科学的に正しく放射線を怖がりましょう、ということを主張しています。南米のゴイアニアで起こった「医療機器から取り外された放射性セシウムの光る塊をおまじないとして食べてしまった」という衝撃的な事故(しかし、にもかかわらず、この事故での死者は4名だったとのこと)から始まり、日常生活に利用されるトリチウムなどのありふれた放射性物質などの紹介もしながら、過剰に恐れることの健康上のリスクについてまで言及しています。

少し厚みはありますが、とても平易な表現で書かれていて、福島の現状にもつながる本だと感じています。

 

 

はじめての福島学

はじめての福島学

 

 福島第一原発が爆発した映像を記憶しているので、放射能のこともだけれど、「そもそもあれだけの事故があった福島、大丈夫なの?」あるいは、「福島ってもう人が住めないんじゃないの?」「農業国だったんでしょう?産業だいじょうぶなの?」などの疑問は当然(なんとなくレベルで)持っていました。「福島に引っ越したよ」というと、「えっ大丈夫なの?」などの特殊な反応をもらうことはいまだにあります。

その辺実際どうなのか、ということを、まずは数字で整理しておきましょう、という本です。

何にしても、まずは統計などのデータで全体像を把握して、そこから読み取れる課題についてひとつずつ具体的に取材して検証していきましょう、というスタイルは基本的な姿勢のはずなのに、こと福島に関してはそれをすっかり忘れていたなあと反省しました。

ここから開沼先生は「福島学」を提唱されはじめたんですよね。

 

そして、今後最もたくさん考えたり話し合ったりする必要が出てくる、廃炉の話です。

 放射線についてはなんとなくつかめたし、福島も実態こんな感じなのね、というのは納得できても、「廃炉」となるとどうしても構えてしまいます。

建物も大きいし、よくわからないけど爆発したりするし、中に危険なものが入ってるようだし、取り扱いも実態もよくわからないので、事故を起こしていてもいなくても、施設そのものに、我々一般人は近寄りがたいです。

それでも、廃炉には費用がかかるし、福島第一原発は事故処理もあるだろうし、早く終わらせてほしいけれどなかなか進んでいないとかも言ってるし、実際どうなの?

という疑問に答えてくれたのは、意外なことに難しくもなんともない「絵」で見せる2冊でした。

 

 

いちえふ コミック 1-3巻セット (モーニング KC)

いちえふ コミック 1-3巻セット (モーニング KC)

 

 まずは有名な「いちえふ」。

フィクションではなく、ノンフィクション、銘打ってあるようにルポ漫画です。実際に廃炉の作業員としての体験が詳細に描かれているので、具体的な作業や日常が手に取るようにわかります。

全く畑も仕事の大きさもレベルも違うんですが、かつて一時プログラマとして商工会議所などの下請け仕事をしていたのを思いだしました。プロジェクトの全体像をマネージメントしたり、様々な責任を引き受けたり、顧客と折衝したり、は元請けがやっていましたが、「でも、ここの仕組みを知ってるのは私だ」という自負がありました。

いろんな立場の人が奮闘されているのだなあと感動と尊敬を覚えます。

 

 

福島第一原発廃炉図鑑

福島第一原発廃炉図鑑

 

 

そして、その名もずばり「福島第一原発廃炉図鑑」。

これだけ読めば、廃炉福島第一原発周辺地域の現状が網羅できる優れた図鑑です。

時代が混乱すると「魔術」とか「呪い」とかが跋扈するのは古来そうなのですが(そしてそれで人が傷つかず何ら困らないならそれでも良いのでしょうが)実態もあるしそこで人が働き、人が暮らしている原発や周辺地域を「魔術だ呪いだ、怖いぞー」で片づけて知らんふりして済ませていると、自分がおなじように困った事態に陥ったときに誰も助けてくれなくなると思うのです。

プレイヤーになること。「ひとごと」じゃなくて、「じぶんごと」と思うこと。

福島に住んでいるから、というだけではなく、同じ日本の社会で起こった事故です。「自分でもなんとかしてみよう」とちょっとでも考えれば、1人でも多くの人が「じぶんごと」として考えれば、ずっと早く廃炉は完了します。

避難生活が続いていることで、そして過剰な放射線不安の情報にさらされたことで、ストレスや生活リズムの狂いをおこし、たくさんの人たちが生活習慣病精神疾患に苦しんでいるという現状があります。亡くなってしまわれる方も増えています。

少しでも早く、少しでもたくさんの人が安心して暮らせる生活に戻れるように。

そのために、まずは「知ろうとすること」。

自分の備忘録代わりのブックリストでした。